子どもにChatGPTを使わせる前に知っておきたい3つのリスク
「宿題の調べものが楽になりそう」「難しい問題も分かりやすく教えてくれるかも」
ChatGPTをはじめとする生成AIの驚異的な能力を目の当たりにして、お子さんの学習に活用してみようと考える保護者の方も多いのではないでしょうか。
しかし、ちょっと待ってください。現在、私たちが日常的に使えるChatGPTなどの生成AIは、本来、大人向けに設計されたものです。そのまま子どもに使わせるには、見過ごすことのできない重大なリスクが潜んでいるのです。
便利なツールだからこそ、まずはそのリスクを正しく理解することから始めましょう。
リスク1:不適切なコンテンツとの遭遇
なぜ起こるのか?
生成AIは、インターネット上の膨大なテキストデータを学習しています。その中には、ニュース記事や学術論文のような有益な情報もあれば、SNSの書き込みや個人ブログなど、玉石混交のあらゆる情報が含まれています。
当然、暴力的な表現、差別的な内容、性的な情報、偏った思想など、子どもの心身の健全な発達にとって有害なコンテンツも学習データに含まれている可能性があります。
子どもへの影響
AI開発企業もフィルタリングの仕組みを導入していますが、完璧ではありません。巧妙な質問の仕方によっては、意図せずとも子どもが有害な情報に触れてしまうリスクがあります。
大人のように情報の取捨選択や危険回避の能力が十分に発達していない子どもにとって、これは非常に深刻な問題です。
具体例
- 歴史について質問したつもりが、戦争の残酷な描写が含まれた回答を受け取る
- 人間関係の悩みを相談して、不適切なアドバイスを受ける
- 単純な好奇心から質問したことが、年齢に不適切な内容の説明につながる
リスク2:「考える力」の低下
「答え」をすぐに求める習慣の危険性
AIの最大の魅力は、質問に対して「即座に」答えを提示してくれることです。しかし、この便利さが、子どもの学びにとっては逆効果になる可能性があります。
本来、学びというのは、分からないことにぶつかり、自分で調べ、試行錯誤し、時には間違いながら、粘り強く考え抜くプロセスを経て深まっていくものです。
思考プロセスの省略
「なぜだろう?」と考え、仮説を立て、情報を集め、分析し、自分なりの答えを導き出す。この一連の思考プロセスこそが、「考える力」を育む上で非常に重要なのです。
ところが、AIに聞けばすぐに答えが出てくる状況に慣れてしまうと、子どもたちはこの貴重な思考のプロセスを経験する機会を失ってしまいます。
長期的な影響
- 「難しい問題はAIに聞けばいいや」という思考パターンの定着
- 自ら問いを立てる意欲の減退
- 困難な問題に粘り強く取り組む態度の欠如
- 多角的に物事を捉える批判的思考力の未発達
リスク3:AIの嘘や間違いを信じ込む危険(ハルシネーション)
AIも間違える
生成AIは、時に「ハルシネーション(Hallucination)」と呼ばれる、事実に基づかないもっともらしい嘘やでっち上げの情報を生成することがあります。
これは、AIが学習したデータの中に誤った情報が含まれていたり、学習データのパターンから確率的に「それらしい」応答を生成する仕組みに起因します。
子どもは見抜けない
大人であれば、ある程度の知識や経験、批判的な視点を持っているため、「これは何かおかしい」と気づくことができます。
しかし、知識や経験がまだ浅く、批判的思考力も発達途上にある子どもたちは、AIが生成した情報を無批判に信じ込んでしまう危険性が高いのです。
深刻な問題
- 歴史上の出来事について間違った説明を正しい知識として記憶
- 科学的に不正確な情報を事実として受け入れる
- 誤った前提知識が、その後の学習全体に悪影響を及ぼす
AIは一見、非常に賢く、自信満々に答えてくれるように見えるため、子どもにとってはそれが嘘や間違いであることを見抜くのは極めて困難です。
まとめ:リスクを知った上で、賢い選択を
これらの3つのリスクは、子どもたちの安全な成長と、本質的な学びにとって重大な障害となり得ます。
- 不適切な情報への接触リスク
- 思考力低下のリスク
- 誤情報を信じるリスク
だからといって、「AIは危険だから一切使わせない」というのは現実的ではありません。AI技術がこれほど社会に浸透している現代において、子どもたちを完全にAIから遠ざけることは不可能ですし、将来必要となるスキルを学ぶ機会を奪うことにもなりかねません。
重要なのは、どのようなAIを、どのように使うかです。
子どもたちがAIの恩恵を安全に受け、かつ健やかに成長していくためには、子ども向けに特別に設計されたAIの利用を検討することが大切です。そして、家庭でのルール作りやAIリテラシー教育を通じて、AIと賢く付き合う力を育んでいく必要があります。
AI時代の子育ては新たな挑戦ですが、適切な知識と準備があれば、AIを子どもの成長を支える強力なツールとして活用することができるのです。
投稿者:吉成雄一郎:株式会社リンガポルタ代表取締役社長。AIを活用した新しい教育システムの開発に従事。東京電機大学教授、東海大学教授を経て現職。コロンビア大学大学院ティーチャーズカレッジ修了。専門は英語教授法。英語に関する著書多数。さまざまな英語教材や学習システムを開発。